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“Fun”✕“Cancer”で紐解く、自分らしさの見つめ方。【後編】

イギリスのエジンバラを拠点に活動するアーティスト、ブライアン・ロベール。

今回は、AIR21:カナザワ・フリンジのリサーチのため金沢にやってきたブライアン。 といっても一人ではなく、彼のプロジェクトを手伝っているアニーと、 彼のプロジェクトの写真を撮り続けているフォトグラファーのクリスタも一緒だ。

“がん”という世界共通のテーマを軸に活動するブライアンが、 1週間の金沢滞在の中で見つけた、新たな創作のヒントとは一体なんなのか? そこに、“日本らしさ”や“金沢らしさ”は、果たしてあるのだろうか・・・?


【We Have to Talk About Cancer(がんについて語ろう)】のイベントを受けて、 ブライアンが翌日に開催したのは、【Let Me Hear Your Body Talk(身体のこえを聴こう)】というワークショップ。 

昨日とは違い、全員が円になって座るところからスタートした今回は、 「あなたが今この瞬間、頭の中に浮かんだ“質問”や“疑問”を、紙に書いてください」というのが、自己紹介代わりの質問だ。

今回の参加者は女性が多いので、なんとなく似たようなものが並ぶのか?なんて 勝手なことを考えていたのだけれど・・・


「病気の体験をアートにするのはなぜ?」 「みなさん、なんで癌の話に興味があるんですか?」 「体の声ってどうやったら聞こえるかな?」 「金沢でいい町家はないでしょうか?」


などなど、蓋を開けてみれば一つとして同じものがない、個性豊かな質問の数々。

勘のいい方はすでにお気付きかもしれないが、ブライアンがはじめにこの質問を問うた理由。 それは、今回のワークショップの主題が、 “一人ひとりが、自分に向き合う時間をつくる”というところにあるからだ。




“逆観察”することで出会う、新しい自分の身体。


ブライアン: 今日は僕じゃなくて、みなさん一人ひとりが主役の日だからね! いいかい? だから、今からそれぞれ、「自分の身体の地図」をつくってほしいと思っている。

まず、あなたが自分の身体の中で「語りたい」と思うところを、10箇所思い浮かべてほしい。 そこから、「一番つまらないと思う箇所」、「人に最も言いたくない箇所」、 そして「今すぐ誰かに教えたい箇所」の3つを、選んでほしいんだ。

ただ、これは決して誰かに見せたりはしないということ。 だからこそ、安心して、正直に選んでその理由を書いてほしい。


いやいや、誰にも見せないとはいえ、そもそも身体の中で「人に語りたいと思うところ」を挙げるなんてことは、私の普段の生活からは、とても縁遠い作業だ。 それを10箇所選ぶだけでも悩ましいのに、さらには条件付きの3つまでピックアップするだなんて・・・、正直なところ、ちょっと逃げようかと思ったほど(笑)

しかし、自分の身体のストーリーを紐解き、自覚していく手法。 これこそが、病気になったら必ず誰もが経験する儀式といっても過言ではない、 診察行為そのものなんだと、自らを“逆観察”することで、気付く。



ブライアン: じゃあ、次はこの地図を折りたたんで中が見えないようにしてほしい。 そしたらもう一度、最初の場所に戻って円になって座ってみよう。 中が見えない状態のまま、自分の右隣の人に渡していく。 そうやって、自分の元に紙が帰ってくるまで、ぐるりと一周させるんだ。いいかい?


「みんな何を書いたんだろうか」、「誰にも言いたくない秘密がばれちゃうんじゃないだろうか」・・・ 自分の隠したいことや秘密を書いたものを、無防備に誰かに手渡していくという行為。 まるで自分の身体の一部がなくなってしまったかのような感覚に襲われて、 その場にいる誰もが、どことなく不安げな表情を浮かべているように見える。

それほどまでに、自らの身体と自分のアイデンティティは深く結びついているということを、2日間のワークショップを通じて、改めて強く強く感じさせられたのだった。



“いろんな自分”がいて、当たり前。


ブライアン: どんなものにも共通して言えることだけど、自分が手掛けたり作ったり、発信したりするものには、その人の“性質”が、少なからず反映されているものでしょ? がんや病気って、どうしても深刻な話題として取り組まれることが多いんだけど、 僕はユニークだし前向きなタイプの性格だから(笑)、 「Fun with Cancer Patients」のような作品を手掛けることが多いわけ。

だって、真面目になったところで、正直何にも解決しないし、劇的に回復するわけじゃない。 病気になったときに、こういうあり方じゃなければいけないなんてことはないんだよね。 いろんな自分がいて、いい。それが、自然なんだから。


欧米では、どうしても“明るく、ポジティブでいること”が求められることが多いんだけど、それは病気に対するスタンスも同じで、“病気と闘う”というスタンスが一般的なんだよね。

でも、金沢に来ていろんな人と出会う中で、“がんと共存する”という考え方に出会ったんだ。 僕は、この日本のスタンスに、すごく感銘を受けたんだよ。 だって、いつも自分の体と戦ってたら、そんなの疲弊するに決まってるでしょ。 だから自分の体とうまく付き合うことのほうが、より効率的だし、よりよくもっと生きやすいなって思うんだよね。



自分のことを理解するという作業は、きっと頭の中だけでどれだけ考えていても、限界がある。 なぜなら、人は概念だけで生きている物体とは違うからだ。 時にはどうしていいかわからなくなったり、時には邪魔だとさえ思うことがあるかもしれない、

でも、他にひとつとして同じものがないこの身体を持っていることこそが、 あなたが、あなたである所以なのではないだろうか。

自分の身体のことを知るということは、自分のできることと同じくらい、 できないことや苦手なことも知るということ。それは諦めではなく、受け入れることだ。

痛みや辛さがあることは決して否定できないけれど、 “Fun”という側面を大事にするブライアンの考え方と、 “共存する”という日本らしいスタンスが合わさった病気のケアがもっともっと世に広がっていけば、 病気というものが見せてくれる世界も、もしかしたら必ずしも悪いことだけじゃないのかもしれないなと、思ったりしている。



取材・文/喜多舞衣(オノマトペ)