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稲田俊輔

上田陽子

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アーティスト

ディレクター

Q.

昨年の「カナザワ・フリンジ」からタッグを組まれているお二人ですが、それぞれお互いに初めて出会ったときの印象って、覚えていますか?

上田

稲田さんが展開している岐阜のレストラン『円相』で、稲田さん自身が好きなものを手加減なしで出す“特別コース”の食事会に参加したのが、「初めまして」の出会いでした。その時、稲田さん自ら給仕して解説してくれたんですけど、マドラスチキンカレーとか白キーマとか、もう一品一品がとっても美味しくて。「これは何だろう、どうやって作るんだろう」ってワクワクして沢山食べた結果、お腹がはちきれたのを覚えています(笑)。噂はかねがね聞いていましたが、嬉しそうに料理への愛を語る姿を見て、「この人、本当に“食”が好きなんだな」と思いましたね。

そうそう、あの特別食事会は、通称「変態コース」って呼ばれているんですけど(笑)、そこに金沢在住の陶芸家・四井雄大君の紹介で来店してもらったのがきっかけでしたね。上田さんは、食に対して“ある種のこだわりを持ちつつ、何でも柔軟に受け入れて楽しむ”というところがあって、とても共感する部分があります。しかも、自分の中だけで完結するんじゃなくて、「どうやったらその楽しさを人に伝えられるだろうか」と考えられる絶妙なバランス感覚を持ち併せていて、「TEI-EN」のプロジェクトを進める際にいつも助けられています。

稲田

Q.

“食を楽しむための素養がある”、そう感じずにはいられないお二人が繰り広げる「TEI-EN」。なにより、ニューヨーク出身のシェフが、“愛ある誤解”で金沢料理を解釈するという設定が、衝撃的ですよね。このコンセプトのベースになっているものって、一体なんなんでしょう。

 

上田

私自身、食べるのが大好きな母親の英才教育を受けて、食を重要視する大人に育ったのですが、金沢の郷土料理をみてみると、取り上げられる料理や紹介のされ方が画一的だなと感じていたんですね。郷土料理自体は、土地の風土や歴史とともにあるものなので当たり前のことなんですが、なんと言うか「そんなに分かりやすいものばかりでいいの?」って。それで、あらゆる料理を一定の志向に偏ることなく価値判断し、言語化し、実際に調理して提供している稲田さんなら、「きっと面白いことをしてくれるに違いない!」。そう思って、金沢の郷土料理で思いっきりやってくれませんかとお声掛けさせていただいたんです。

いやそもそもね、普段自分がやっていること(発信していること)が、アートに結びつくということが、まず驚きでしたよね。でも、だからこそ、今回導き出したのが、「異文化の食をリスペクトして楽しむ中から生まれる、“愛ある誤解”あるいは“多様性”」というテーマなんです。ただ、料理は器があって初めて引き立つものでもあって、それで言うと今回のプロジェクトに欠かせないのが、僕たちを引き合わせてくれた陶芸家の四井雄大くんの存在なんですよね。彼が生み出す“独創的すぎる器”からインスピレーションを受けることで、「TEI-EN」の料理が生まれてくる、というような。僕と上田さんって、“調理・テキスト担当”とか“プロデュース・デザイン担当”みたいに何かの役割を担っているんだけれども、四井くんは“四井くんである”ということが、役割というか象徴そのものなんですよね。一見馬鹿話すれすれにしか思えない僕と四井くんのディスカッションから生まれる小さな可能性に、上田さんがせっせと燃料を注ぎつつ、いつの間にかまとめていく関係性とでもいうのかな。そういった三人のセッションの中から、クリエイションされているというわけです。

稲田

Q.

たしかに、郷土料理の“治部煮専用の器”があるくらいだから、

金沢における料理と器の関係性って、ものすごく奥深い歴史がありますよね。そんな文脈を受けて、去年は1日だけの架空レストランをオープンされましたけど、今年はどんな展開を予定しているんですか?

上田

まず、去年つくったフュージョン料理をベースに、「金沢奇妙弁当」と名付けた少し不思議な幕の内弁当を、10月に製作・試食販売します。そのお弁当を食べた人には、「どの順番で食べたか」というレポートを書いて頂き、その分析結果を11月の本番のトークイベントで紹介します。同時に、稲田さんが料理を仕込んでいるのを見学できるマニアックな会や、稲田さんの作品ともいえる「レシピ」を再現して、みんなで楽しむ会なんかも開催しようと思っています。ちなみに、お弁当は9品なんですが、一品一品の味覚の高低差が激しいラインアップになる予定なので、どうぞお楽しみに!

僕個人的に、“食べる順番”って、文化圏や地域はもちろん、家庭や個人、習慣やしきたりに至るまで、とても豊かな物語を秘めているんじゃないかなって思ってるんですよね。だから今年の「TEI-EN」はそこに着目して、「食べる順番は、食事の楽しみの中でどれほどの重要性を持っているのか」、はたまた、「そこからどんな価値観や多様性が生まれてくるのか」ということを、きちんと解析したいと思っています。そのうえで、金沢で生まれ育った人たちが、新しい視点で構成された「金沢弁当」を一体どんな順番で食べるのか、そしてどう感じるのか。個人的にはすごく気になりますね。

稲田

Q.

ヘルスケアや美容としてのアプローチではない“食べる順番、たしかにすごく気になります。そんなお二人が、今年の「カナザワ・フリンジ」を通じて表現したいこと、最後に教えてもらえますか。

稲田

 

僕からすれば、もうとにかく「食べる」ということは、最高のエンターテインメントだと思っています。どれだけ突き詰めてもきりがない“奥深い楽しみ”でもあり、多様な文化や価値観を理解する“最短の道”でもある。もちろん手軽で安くて美味しければ言うことなしというのもよくわかる一方で、でも、それだけだとあまりにもったいない。「カナザワ・フリンジ」自体、いろんな人のつながりの中から生まれる自由さがあるプロジェクトだと思っているので、同じように視点を少し切り替えるだけで、「食べることって、こんなに自由で楽しくなるんだ」という発見や驚きを、僕のプロジェクトで伝えることができればいいなと思っています。

そうですね。金沢生まれ金沢育ちの私としては、「カナザワ・フリンジ」って、金沢に暮らしている“私”が、気付いたり、疑問に思ったりしている物事に、“光”を当てることができるプロジェクトだと思っています。ただ、その“私”っていうのは、“特定の誰か”でも、“選ばれた誰か”でもなくて、今回の「TEI-EN」で言えば、たまたま上田陽子という私が、金沢の食に光を当てたというだけ。もちろん、金沢のまち全体からみればこのプロジェクトは懐中電灯くらいの光かもしれないけど、私自身“アートを考えるように食べることを考える”というこの切り口に出会えたのは、やっぱり「カナザワ・フリンジ」に参加したからだと思うんです。同じように、金沢に暮らしている一人ひとりが、普段何気なく抱いている違和感とか、あるいは温めている声なき声みたいなものについて自覚的になりそこに向き合ってみたら、一体どんなことが起こるだろう。「カナザワ・フリンジ」は、そんな一人ひとりの小さな一歩を踏み出すきっかけにつながるんじゃないかなって思うんです。それに、まちの中にいろんな“私”がもっと増えれば、金沢はきっと、もっともっと面白くなると思いますしね!

上田